〜接点なきサポーター 〜
光の旅人
第二章 憎悪の交錯 1
誠一は研究室で人工衛星から送ら
れてくる画像を分析していた。
トントン
「教授〜 松山です。」
「どーぞ」
2年生の松山優香だった。
大学の敷地内にあるドトールコーヒー
から買って来たのだろう。
両手にコーヒーを持って器用に
ドアを開けて入ってきた。
誠一は振り返ることなく
作業を続けていた。
優香が誠一の座っている椅子の
となりに立ち
「教授、コーヒーどうぞ」
誠一はその時、
はじめて優香の顔を見た。
心のなかでつぶやいた。
「あれっ?なんだあ〜この顔」
松山優香の顔・・・
左の額、丁度こめかみに近い場所から
モヤモヤと煙のようなものが
出ている。
さらに、その煙が、
出ている額の辺りが
バチバチ(実際には音はしない)と
赤、青、の光が見えている。
(心の声)
「これは・・・」
優香が、
「私の顔に何かついてます?」
「あ〜、いや。 今日は、どうし
た?」
「あ〜! はい。
あの〜教授は、発掘現場とかは
行かれないのですか?」
「行くよ。 と言うか夏には
行くかもしれないね。
申し込みをしているところだが、」
「ヘぇ、すごいですね。」
「まぁ、発掘と一言で言っても中々
大変でね。
大昔の集落の跡、遺跡の跡が今も
そのままという事は先ず無いからね。
地上に何らかの建造物などが
あることが多い。
それか深い森の中だったり、
スムーズに発掘できたら
ラッキーだけどね。」
と答えながら、優香の顔の現象を
考えていた。
(心の声)
「それにしても何だろう、
この感じ
・・以前にも見たことがある。
何だ? いつだ?」
「ところで、松山君は
講義を受けているようだが、
本当に宇宙考古学に
興味があるのか?」
すると優香は、
バレたか・・的な様子で
「う〜ん。 て、言うか
私、最近彼が出来たんです。
それでその彼が、熱く語るんです。
宇宙考古学の話・・
だから、天王寺教授の情報が
あったら、
話のネタになるかなーって。ヘヘ」
(心の声)
「何だ、この子は。
私はダシにされていたのか。
仮にも私は教授だぞー。
馴れ馴れしくも、
こんな話をズケズケと隠すことも
なく話すとは?
あ〜十数年で人種は変わってしまう
のか、恐ろしいものだ。
・・そんな私は大昔の事を調べて
いるんだから・・笑えるな。」
誠一は
「彼って・・。 近藤玲穩 君か?」
と聞いてみた。
「やだー!そうです。」
と優香が、
バレたかと言うように答えた。
(心の声)
「何だ、ズボしか!」
誠一の脳裏に近藤の講義を
受けている様子が浮かんだ。
「そうか!彼は確かに熱心だな。」
すると・・
近藤玲穩が誠一の前に現れた。
いやいや、脳の中のことである。
あくまでも周りには、
何も現れてもいないし、
何も見えていないのだ。
その誠一の脳裏に現れた
近藤玲穩は・・
あれーっ!
両足と右の腕ののところに
絡みついている、霧状のものがある。
どす黒い・・ピンク?!
そして、それとは別に彼の上半身には
ピンクとオレンジが混ざっった
ような霧状のものが〜。
その時
「教授! 発掘には大学生は、
行けないんですか?」
誠一は脳内の映像から開放され、
「う・・〜ん、
行けないという規定はないが、
実際には難しいだろうな。
発掘作業自体のプロジェクトは、
限られているし、
有名な博士のグループに入るために
は、かなりの知識と経験といった
アピール要素が必要だろうな〜。」
そこまで聞いて、
諦めた様子になった。
なんて分かりやすい子なんだろう。
「そうなんですね。
難しいのか!
それにしても教授は、
小さい頃から宇宙工学に興味が
あったんですか?」
(誠一の心の声)
「何だこの子は、友達のようにこんな
話を平気で私にするのか・・。
教授とは、もっと権威や威厳が
あるものではないのか。
まぁ私もルーキーな訳だから。」
「教授〜。」
「あ〜、そうだな。
本当は、天体観測に興味が
あったんだ。
宇宙の謎を解き明かしたいと
思っていたが、
人工衛星を使った考古学を知って、
面白いと思ってしまったんだな。」
(誠一の心の声)
あの頃はたのしかったなあ・・と
思い出に・・ハッとした。
いや、遊んでるわけには行かない。
「松山君、大した要件がないなら、
私は解析がしたいから失礼するよ。」
と言いながら松山の顔を見ると、
やはりバチバチと光が出ていた。
モヤモヤとした煙のようなもの。
それで・・
余計な一言を発してしまった。
「まぁ、近藤くんは女の子に
人気があるみたいだから、
他の女の子に恨まれないように
気をつけて・・」
まで言って、慌てて口を閉じた。
すかさず、優香は
「えーっ!意外!!
教授がそんなこと言うなんて。」
照れ隠しのように誠一は
「いいから、私はもう作業に戻るよ。
コーヒーありがとう。」
右手を上げて小さく振った。
もうこれでお終い・・というように。
優香は。明るく
「はーい。失礼しまーす。
また来ます。」
優香はドアを開けて出て行った。
誠一の頭は先程からのせいで
作業どころではなかった。
気になって、
胸騒ぎがして落ち着かない。
(誠一の心の声)
「優香は、誰かに恨まれているかもしれない。しかし、左の額に現象が出ていると言うことは・・
身内、血の繋がりがある親族、いとこ、
親戚と言うことになる。
一体?誰に恨まれているのか。
しかも、あの額の現象は、
近々にその恨みを持っている者が
行動を起こす可能性が強いようだ。
さらに〜近藤玲穩だ。彼は、
モテモテらしいが、
複数の女性からの思いが体を
包んでいる。
ただ、彼の中には誰も入っていない。
まじ合うことが出来ないような、
彼の心が、女性達に向いていない
ように感じられる。
しかし・・だ!
足にまとわり付いているのは、
ちょっと異様だ!
ストーカーを感じてしまう。
彼の動きを封じているような・・。
しかし彼は、交わり合えていないのが
功を奏しているようだ。
実際には周りにまとわり付いて
いるだけで彼の中には入れず、
彼には今の所何の影響もないよう
だ。
ただ、そう言っても足にまとわり
付いている女性が、
松山優香に恨みを抱いているとした
ら〜。」
その時、ピン!
と何かが恥じける音がした。(脳内の音)
(誠一の心の声)
「そうか、ズボしか!
となると、松山優香に被害が生じる
可能性がある。
いやいや〜、余計なことには首を
突っ込まないほうが良い。
子供の頃の教訓だ。」
誠一は、思い直して、
何も無かったかのように
人工衛星からの画像解析を始めた。
翌日の朝、誠一は大学に向かっていた。
今日の講義は午後からなのだが、
論文の仕上げをしなければならないのだ。
年に数本は、
それぞれの学会に出すのだが毎回、
全く新しいものを投稿する訳ではない。
論文とは大概一つの大きなテーマの
ものに対して、
大きな軸になる論文を作り
それに、
足したり引いたり、
または部分的にピックアップしたり、
あるいは、ベースは同じだが、
角度を変えて〜などなど。
つまり、仕上げというのは、
そういう論文のインパクトの
持ち方や見せ方、
最近では画像などを上手く使う
(以前よりもかなり制度が高い映像)
ことも、パホーマンスとしては、
効果はあるだろう。
宇宙考古学という学問はまだまだ、
実践も少ないためデータ的な、
分析が多い分、
予想でしかない弱みはある。
まぁそれだけ地味な学問なのだが、
その中でも、
数少ない実践の場に携わることは、
非常に貴重な経験である。
そんな意味でありがたい事に、
昨日、帰る間際に
ビックニュースが、
メールで飛び込んできた。
兼ねて、申し込んでいた
今年の夏の各国合同の
発掘プロジェクトに参加が決まったのだ。
キャンパスに入ると、
生徒達がざわついていた。
何かあったのだろうか?とも思ったが
所詮、学生たちの話題なのだろう。
そう思いながら、
ざわついている、かたまりの横を
通り過ぎようとしたとき、
A
「それで、優香は大丈夫なの?」
B
「入院したらしい」
C
「どうも、近藤くんの取り合い?
じゃないかって」
A
「えーっ、優香と付き合ってるんじゃ
ないの?」
Ç
「それがー」
通り過ぎ、立ち止まるわけにも行かず
そこまでが限界、
聞こえなくなってしまった。
誠一はそのまま研究室に向かった。
背もたれの高い、
革張りの座り心地の良い椅子に
ゆったりと座り思いっきり
背もたれによりかかる。
(心の声)
「考えてもしょうがない。」
パソコンを立ち上げると
メールが届いていた。
大学の連絡事項だ。
メールの内容
・・・・・・・・・・
職員各位
4月20日(月)
キャンパス内負傷事件に伴う対応について
4月20日(月)
午後6:15頃
当キャンパス第2園庭において、
2年 松山優香
2年 平塚真美
同名が言い争う中で、平塚真美が手に持っていたスマホで松山優香の顔面を殴打、その反動で体のバランスが崩し、植え込みの根元の石に転倒、頭部を打ったものである。
松山優香は、意識を失い救急搬送され
入院に至る。現在は意識を取り戻し、
一週間の検査入院となっている。
校内での負傷事件ということで、
慎重な対処が求められるため、
取材等を含め、一切の発言は控えることを徹底事項として通達いたします。
総務課 広報担当 佐藤路子
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
誠一はメールを読み終った。
「昨日、ここを出たあとか・・」
それから、
無意識に、松山優香、平塚真美と書いて
松山優香から、一人ずつ人差し指で
マーカーでアンダー線を引くように
名前を謎った。
二人をなぞり終わると、
誠一の目の前にキャンパスの
園庭が広がった。
誠一は、地上から1メートル位浮かんでいる。
スーッと、二人の側に近づく。
(全てがイメージで行動できる。この場合二人のそばに近づくイメージである。)
会話が聞こえてきた。
「私が玲穩君と付き合っているん
だからね。ドロボーみたいにコソコソ
なにやってんのよ!」
と真美が言った。
「何言ってんのよ!玲穩君はあんた
なんかと付き合ってないって、
言ってたよ。一人舞い上がっている
だけじゃないの、バカみたい。」
と優香がののしる。
「ふざけないで!許さないから。」
バーン!
真美は、優香の顔めがけて
スマホで叩いたのだ。
優香は、グラっとよろけると、
後ずさりし、植え込みの石に躓き
そのまま、仰向けに転倒した。
ドーン
鈍い、嫌な音がした。
スーッと、映像が消えて行った。
誠一は、
胸騒ぎがしてならなかった。
(心の声)
これでは終わらない・・・。
ここから始まる・・?
それは、 嫌な予感しかしない。
関わりたくはないが
食い止めないと、
恐ろしい出来事がまた起こる・・・。
どうやって!食い止められるのか
一体これから何が起こるのか。
取り敢えず
今の所は、優香は意識を
取り戻したらしいから・・・。
先ずは論文を仕上げよう。
それからだ。
後編へ続く